「未来の乗り物ってどんなだろう?」……電動バイクはじめました。
ファクトリーの中に未来がある。世の中とともに変化していく価値観。「いずれガソリンで走るオートバイは作られなくなるという悲観論ではなく、 面白い乗り物が世の中に出てきたことをみんなに伝えたい」 電動バイクってどんなだろう? 今までとは違う景色を見たくはないか?
■そもそも電動バイクに興味を持ったのはなぜでしょう。
内海 昔々ラジコン小僧だった頃、燃料入れて、軽くクランキングさせて、プラグをイジってエンジン掛けて、キャブのニードルを調整してやっと走り出す……という世界に突然ニッカド電池を搭載した電動バギーが出てきた。スイッチを入れるだけで走る姿……それが衝撃で。
■遡りましたねえ(笑)。
内海 そこまでは遡らないけど結講前から朝、犬の散歩をしていると、たまに電動スクーターで駅まで行く人とすれ違ったりするようになった。「にゅーん」って、静か。モーターで動く乗り物には遊園地でしか乗ったことないからね。エンジンではない動力で街を走る。それは自分の中では未来の乗り物で。
■未来はどうでしたか?
内海 乗ると心がニュートラルになる。気持ちが高ぶらないんです。その裏返しで、エンジンの音と振動がいかに人間の潜在的な闘争心を高ぶらせるのかを認識しました。
■でも気持ちが高ぶるのがいいわけで。
内海 だからスピード出したくなるし、「俺のほうが速い!」って誰かと競いたくなる。
■気持ちを盛り上げるもの……音楽、美味しいご飯を食べる、恋をする……そのひとつにバイクもあって、それがたまんないってやつらがバイクの世界を支えている。その世界を知り尽くした内海さんが電動に乗ると高ぶらない。
内海 クルマもエンジンがばぶばぶ言う昔のマニュアル車には高揚感がある。今の音もないクルマに乗ってもそれはない。
■クルマが例だとすげー分かります。
内海 スクーターでも音はするしトルク感や振動という高ぶる要素があるでしょう?
■あります。スペイシー100だろうが。
内海 それがオートバイの楽しさ。Vツイン、Lツイン、フラットツイン、4気筒6気筒。いろんなエンジンにそれぞれの音と振動がある。人がオートバイに求めているのは音と振動なんだろうなあ。
■人がオートバイに求めている世界と電動の世界は違うと。
内海 でもエンジンがモーターになっただけの話でそれ以外の部分は変わってはいない。スポーツ、オフロード、アメリカン……カタチやディメンションで乗り心地に変化をつけられるのは一緒だと思います。モーターと電池、保安部品がついて機能していればあとはなんでもありみたいな。
内海 カッコ良さを求めるのは電動も一緒でしょう。個性が出せる自由度が広がってパーツの制約がなくなるぶん、取り回しを工夫してギリギリのクリアランスでマフラーをつけたり……といった仕事では応えられなくなってしまうのはちょっと寂しいかなあ。世界が平べったくなるというか。
■平べったく?
内海 どのメーカーもみんなモーターだし。
■違いを出せるのはデザイン……。
内海 しかないと思う。私以上にメーカーの人間はどうやって個性を出そうか苦慮してるでしょうね。
■でも平べったくなるって聞くとちょっとつまんない気が。
内海 それは未来の話。世の中に電動が行き渡りはじめた時、乗る人たちがそこに何を求めるかは想像がつかない。世の中とともに価値観が変化していくのも長い時間がかかるしね。
■未来の入り口にいることは確か。ラジカルは未来の案内人に立候補したわけで。
内海 しばらくは両立て。一気に電動化されないけど街で見かけるようになって、エンジンもいる電動もいる。両方持っていればその日の気分で「昨日はエンジンだったから今日は電動にしよう」とか。そこがスタートラインだと思う。サブで電動を楽しむというか。
■俺のバイク、15年経ったら乗れなくなるかも……って気にしていても「生きてるうちは大丈夫だろう」って感覚の人は多いと思います。内海さんも今まで通りにエンジンのバイクだけ触っていてもいいんだけど電動バイクに喰いついちゃうという。
内海 なにしろ見たことないものが出ると欲しくなっちゃうから(笑)。エンジンがなくなるという悲観論で選んだわけではなく、「電動でツーリングに行ったらどういう気持ちなんだろう? 音がないバイクで箱根を走ったら?」……それを体感したいのが一番。
■ここしか残ってなかったかもですね。ツーリング、第三京浜、レース……いろんなバイクに乗ってきた内海さんにとって未知の世界。
内海 それは見なくちゃ気が済まない。面白い乗り物が世の中に出てきたんだよってみんなにも知ってもらいたいですね。違う景色が見れますよ。