内海 カスタム屋というより、加工屋とかそっちの分野でくくってもらったほうがうれしいかな。
技術、そして「個」を重視した物作り。突き詰めたいのはこのふたつ。
「絵心ないし、短気だから乾くの待ってられない」ということでペイントはやらない。というかやらないのはペイントだけであとはなんでも作ってしまう。
そのひとつが「加工屋」ラジカルのアイコンのひとつとも言えるクロモリシャフト。
内海はなぜ、素材としてのクロモリ(クロムモリブデン鋼)に惚れ込んでいったのか?
内海 以前ドラッグレースをやっていたんだけど、普通のオートバイの首を寝かせて車高を下げてそれっぽくしたところで真っすぐは走らないんですよ。でも本場アメリカのドラッグレーサーはシンプルなシャーシにぶっといタイヤ、物凄い馬力なのに真っすぐ走る。
シャーシに使われていたのはクロモリ4130というパイプだった。
内海 調べたら四輪のトップフューエルも全部4130。違いはそこにあるんだな……ってラジカルを始めた時からクロモリに固執してました、惚れ込んだというか。
内海 スズキのフロントフォークにヤマハのホイールをつけたりする時、いつも純正を使ってたんです。でも値段が張るし長さの自由度がないから45Cという炭素鋼で作ってみた。これが精度も出て「ウチの旋盤も捨てたもんじゃねえな」って(笑)。じゃあクロモリで作ったらどうなんだろうと。
機械的性質、装着した状態での動的性質、固有振動数、材料力学……独学でクロモリと向き合い、自分で熱処理した「手焼き」のシャフトが完成した。通勤用のオフ車に装着したところ……。
内海 まずハンドルが高くなった気がした。ちょっと走ったらそれはそれは乗り味が違う。オフ車ってフォークが長いから曲がり角で深くバンクさせると最後にフロントが切れ込んで転んじゃいそうな感覚になるんだけどそれもない。荷重がかかったタイヤが変形して、その弾性で路面をグリップしているのが伝わってくる。これはみんなにも使ってもらいたいと思いましたね。
発売前のシャフトをモトクロスやロードのレーサーでテスト。「普通のオフ車なのにウォッシュボードでモトクロッサーについていける」「接地感とダイレクト感が変わった」と評価は上々だった。
内海 モトGPクラスだとライダーやコースに合わせて肉厚や強度を変えてるんじゃないかなあ。実は物凄い秘密が隠されているパーツかもしれない。クロモリ、ノーマル、チタンにアルミにステンレス。さまざまな素材をテスターにかけていろんな条件で作動させた上で数値化しない限り、答えは見つからないと思うけど、クロモリは普通の鉄より引っぱり強度とヤング率(※たわんだ時にどれだけ戻るか)が高いことは間違いない。だから……「つけてみりゃ分かるよ!」ってところに至っちゃうんです(笑)。
写真は岩手県宮古市の黒森神社